蜜月まで何マイル? “その双眸に…”
 



          




 それはいつもの“冒険”の最中。自分たちの首に懸けられた賞金を狙う、下衆な海賊団たちの仕立てた“罠”…とも呼べないような詰まらないおびき寄せの財宝伝説に、ついつい食いついてしまった、我らが“麦ワラ海賊団”であり、
(苦笑)

  「財宝の眠るは 渓谷の巌谷
いわや。…此処らしいわね。」
  「渓谷…。」
  「今にも涸れそうな小川ですが。」
  「道しるべに従って来たんだから間違いないわ。
   それに、この島にはこれ1本しか川は無いんだもん。
   山だって低いもんだし、谷間なんてもの自体、何処にもないんじゃない?」

 どうやら幾つかの海賊団が協定を結んだようで、そんな連中による複合作戦であったらしくって。それなりの罠を頭を絞って考えたらしい工夫もところどころに見受けられ。殊に、あまりにわざとらしい仕立てへ、本来ならば洟も引っかけないだろう判断を下すべき頭脳班の面々が…ついつい気を惹かれたのが、罠のための“餌”にと準備されていた秘宝。伝説とやらの最後に待ち受けているとされていた秘宝というのがあったのだが、これが結構 美味しそうなサファイアだったので、
『美味しそうなって、旨い宝石なんか? なあなあ。』
『食えるのかっ!? そんな宝石があるのかっ!?』
『驚くことはないぞ、チョッパー。此処はグランドラインだからな、かく言う俺様も、かつてイーストブルーで“キャプテン・ウソップとその仲間たち”で航海していた頃に、こ〜んなでっかい、おにぎり型のダイヤモンドを見つけてな。食ってみればこれがまた塩加減の絶妙な美味…』
 それはもしかして巧妙な揚げ足取りなの?と、ナミもさすがに“ぴきき…”と額の端っこへお怒りの血管を浮かせかかったほど、それは無邪気な事を言い立て出したお子様たちは置いといて。
(笑) 大きくて、しかも『シーマリン・ブルー』なんて通り名のある、その筋では有名な宝石らしいからということで。退屈していた船長さんにはささやかな冒険タイム、そして財務省には“お宝をいただいてしまいましょう”というドリームが功を奏して話は決まり。わざわざこちらから、いかにも怪しげな“伝説の島”とやらに立ち寄ってやった。浜や森にて襲撃をかけて来る海賊たちを、当たるを幸い、片っ端から“ぺぺいっ”とばかりに戦闘班たちが軽々と薙ぎ倒して、孤島の中を進むこと半日ほど。怪しき地図の解説に従って、中央にそびえ立つ岩山の麓にぽかりと口を開いていた洞窟に踏み込んだ一行は、

  「へぇっへへへへ…。待っていたぜ、麦ワラの。」
  「お前らもとうとう年貢の納め時ってもんだ。」
  「さぁさ、その首、俺らに差し出しな。」

 隧道内のところどころに灯された篝火の炎が揺らぐその奥。天井も高くて、ちょっとした講堂くらいはあろうかという、結構 見事な岩屋の広間に設けられたラストステージにて、急造の海賊連盟とやらが“最後の切り札”にと残しておいたらしき恐持てのする顔触れたちと向かい合うこととなったのだが………。

  「さあ、お行きなさいっ! あんたたちっ!」
  「はいっ! ナミさんっvv
  「だから、何でお前に仕切られにゃならんのだっ!」
  「うっひょぉ〜〜〜いっ、ゾロ、行っくぞ〜っ♪」

 お返事は一番早かった黒づくめのシェフ殿よりも先に飛び出して、腕を肩口の付け根からグルングルンと大きく回しつつ、麦ワラ帽子の船長がスキンヘッドのデカブツに“ゴムゴムのピストル”で殴り掛かれば、
「あ、てめ〜っ、ルフィっ。先陣取りやがって、このォっ!」
 一番乗りの功名を奪われたサンジが、咥え煙草のフィルターを噛みしめつつの歯軋りをし、棍棒を振りかぶって自分へと突っ込んで来たマッチョな伊達男の最初の一閃を、素早い跳躍で高々と避けてから、
「こんの筋肉ムキムキマンがよっ。似たような糞トッポイ野郎がいつも鼻っ先にいるから、闘志も沸くってもんだぜ、ホントっ。」
 要らんことを言いつつ、手はポケットに入れたままに踵落としを食らわせて。そんな彼の言いようが、しっかり耳へ届いたか、
「…んだと、このイカレ眉毛がっ。」
 丁度というか たまたまというか。こちらさんが向かい合っていたのが…マジックテープの接着面、何にでもベリリッと“くっつきます”な方のような ごわごわ剛毛眉毛の男が相手だった、屈強精悍な三刀流の剣豪さん。あくまでもサンジへの自分の言いようへ、なのに こっちのお相手がムッとしたのへ。ワンテンポほど遅れて、
“…ああ、こいつへの悪態にもなっちまったか。”
 渋く苦笑をし、腰を落としてのまずは二刀流の構え。体の前方と僅かに引いた自分の傍ら、斜め対角線上に構えた二つの切っ先を…静かに十字にクロスさせ、
「哈っっ!」
 弧を描く陣旋風も凄まじく、2本の刀が鋭く旋回し、周囲の空気を巻き込むように螺旋に繰り出された剣撃一閃。大人数や大きな相手を軽々と吹っ飛ばす大技の“鷹波”によって、周囲にたかりかけていた連中を天井まで届けとばかりに吹っ飛ばし、さて。

  「「「…あわわ。」」」

 自慢の右腕やら懐ろ刀やら用心棒やら。こいつら倒せば懸賞金が入るからと、捕らぬタヌキの皮算用で何とか頑張って取り揃えたのだろう戦闘方面での最後の砦たちを…全てあっさり伸
された船長格だけが居残った対峙となって。
「さぁてどうするね、おっさんたち。」
「こいつらも吹っ飛ばしちまおうぜっvv
「まあ待て、ルフィ。弱っちい丸腰野郎どもを吹っ飛ばしても自慢にゃなるまい。」
 無邪気な船長を宥めつつと思わせといて、
「先の戦闘で、お前、相手のあばら骨を4、5本ほどうっかりへし折っちまったろうが。」「そうそう。ちょっとデコピンしただけだっつって、ムチウチ症にしちまったりもしたしな。」
 両側から凶悪そうなお兄さんたちが…どっちかというと恐怖を煽るような物言いを並べて、ますますのこと、船長さんたちを震え上がらせてやったもんだから、
「ひっ!」
「ひえぇぇえぇぇぇっっっ!!!」
「助けてくれぇ〜〜っ!!」
 泡を食っての火事場の馬鹿力。決死の覚悟で駆け出して、あっと言う間に洞窟の外へと…無事に出られていればいんだけれどもね。
「………あ、水の音がした。」
「あれは曲がり角を間違えて鍾乳洞へ突っ込んだな。」
「ゾロが嵌まりかかったアレな。」
「うるせぇよっ。///////
 よ、余裕…なのかな? そんな感慨でもって敗者を見送れる辺りは。
(笑) 自分たちで幕を引いたらしき“海賊連盟”の幹部の皆々様の、断末魔の野太い悲鳴を何となく聞いてた戦闘班&お宝ハンターの四人が、その広間の入り口にてこちらを伺っていた船医さんと狙撃手さんに気づいて“おいでおいで”と手招きし、
「さあ、これで邪魔者たちは一掃したわっ。」
「おおっ! いよいよのお宝とのご対面だっ!」
「あっ。待て待てっ、俺が先〜っ!」
 手ごわいのが全部いなくなったもんだから、いきなり元気になった狙撃手さんが一等賞目指して奥向きへと駆け出すのを、負けじとルフィが追っかけて。これがこの“寄り道”の一番の目的だった、秘宝とやらとのご対面に臨んだ彼らであり。

  「…あ、あれはなんだっ?!」

 一番奥向きの闇だまり。鼻の利くチョッパーが、闇に霞んだ洞窟の奥の壁の隅っこに、ちんまりと置かれてあった木箱に気がついた。がっちり分厚い木製で、しかも仰々しい金具で四隅や継ぎ目を補強された、いかにも“貴重品が入っております”と言わんばかりの箱であり、
「これもまたある意味で“罠”だとは思うのだけれど…。」
 無人島な筈なのに、けもの道にしてはしっかり踏み固められた道が通っていたり、その道のあちこちに“○○の谷はこっち”とか“▽▽の泉はこの奥”なんていう看板があったりと、何もかもが“これみよがし”三昧だった“冒険の島”だったから。自分たち“麦ワラ海賊団”をおびき寄せるための秘宝、有名なサファイア『シーマリン・ブルー』とやらが、本当に準備されているのかどうかは…なかなか微妙な確率だったが、
「でも、ロビンが言ってたぞ。その宝石は表舞台からは行方が知れなくなって久しいけれど、国が買えるほどってくらいの価値まではないからって。だから、せいぜい金貨代わりって扱いで、闇の世界でぐるぐると回って、流通しているんじゃないかって。」
 だとすれば、あいつらのような半端な海賊にだって手に入れるチャンスはあったろうから、用心棒を集めたと同じ“捕らぬタヌキ…”で、そっちも準備したのかも。

  「何だよ、これを目指してここまで来たんだろ?」

 宝箱を前にして、妙にためらいを見せているナミやウソップだとあって、怪訝そうなお顔になったルフィが、
「な〜にが入っているのかな〜♪」
「え?」
「あっ。こ、こら、ルフィっ!」
 皆が止める暇もあらばこそ、ずかずかと箱へ近づいて、拳骨でガッツリ殴って南京錠を叩き落とすと、そのまま蓋へと手をかけたもんだから…他の面子たちが慌てたのなんの。しかも、

  「……………え?」

 無造作にぱかりと持ち上げられた宝箱の蓋。そこから現れいでたものはというと、目に目映いばかりの黄金の……………

  「閃光弾だっ!」
  「うわあぁっっ!!」
  「皆っ、見ちゃダメだっ!」
  「目をつぶってっ!」

 蓋を押し上げる勢いさえ持っているかのような、途轍もない閃光が溢れ出し、洞内に満遍なく垂れ込めていた闇の漆黒をあっと言う間に制圧して塗り潰す。


   「「「「「うわぁあぁぁっっっ!!!」」」」」


 薄暗くても夜目が利く面々だったのが、この場合は完全に災いして。蓋が開き切ったその瞬間、全員が形あるものに薙ぎ倒されたかのように、うわっとその場に叩き伏せられてしまったのであった。







            ◇



 とんでもない“オチ”の待っていたトラップだったが、ご心配なく、全員が無事に洞窟からの帰還を果たすことが出来まして。現在只今はゴーイングメリー号も航路に戻っての旅程の最中。律義なことには、例のサファイア『シーマリン・ブルー』も宝箱の底に鎮座ましましており。多大に得るものもあったので、採算的には何とか満足出来るレベルの“冒険ごっこ”だったのではあるけれど。

  「“雪盲”?」
  「うん。あまりに強い光を浴びて、角膜や網膜が炎症を起こしちゃうことだ。」

 足元一帯から岩壁や木々の幹やら梢やら。周囲の360度、そこら中が純白の積雪に覆われたような状況下で、乱反射する大量の紫外線にやられて起こすケースが多いことからそんな名前の付いている傷病であり、一緒にしちゃあいけないが、ワープロやPC、プロジェクター用のモニターへ、光量の強い同じ画面ばかりを映していると映像の陰が焼き付きますよって注意されたことはないですか? そこで、24時間ネット接続している必要があるPCのモニター用に開発されたのが、刻々と画像が変わるように動画やランダム画像がセットされてある“スクリーンセイバー”な訳ですが。
「ひどくすると光が焼きついちゃって、角膜や水晶体が濁ったままになったり、網膜や視神経が焼き切れちゃったり、そのまま見えなくなってしまいもするからね。たかが光でも、甘く見てると怖いんだよ?」
 他の面子たちは、立っていた位置が遠かったり、誰かの後ろに重なる格好で立っていたりしたもんだから、光の最初の一閃の段階で顔を背けるという反射をこなせ、何とか助かっていたのだが。

  ――― その反射が最も鋭い筈の“剣士”であるゾロだけは。

 皮肉なことに、だからこそ…鋭かったからこそ、それもまた“攻撃”であると判断し、対応がワンテンポ遅れてしまったらしい。
「目眩ましの光に紛れて危険なものも飛び出して来やしないかって。それを心配したんでしょうね。」
 それが単身で相覲
まみえていたのなら、多少飛んで来るものがあったってと、やはり目を伏せる反射の方に素直に従っていたのだろうが。何せ、彼らの一番先頭に、しかも無防備に立っていたのが、その手で蓋を開けたルフィだったから。咄嗟という一瞬の中、背後から飛び掛かって帽子ごと頭を押さえ込み、ルフィをその場に伏せさせつつ。しかもその上、光の他に何か出て来はしないかと。
「そんな危惧へちらと確かめる視線を投げたその“一瞥”の分だけ遅れてしまい、こんな被害をこうむってしまったんでしょうね。」
 冒険の最中、唯一残って船の番をしていたロビンが、真摯な表情にて付け足して。
「何よ何よ。日頃から、居眠りしてたって危険はちゃんと感知出来る男なくせにっ。」
 ナミが眉を逆立てて非難をしたが、その声は不安に震えて力なく。医務室のベッドに横になっている、目許に真白き包帯を巻かれた剣豪へと、届いているやら いないやら。

  「聞こえてるぞ〜。」

 おおう、起きてたんですか。
「痛みはないか? ゾロ。」
 横たえられた寝台の、すぐ間際に控えていた船医さんが不安げなお声で尋ねかければ、
「ああ、ちっと目の底がジンジンするくらいかな。」
 起きていて、なのに目を瞑ってなきゃならない不自然さに筋肉が妙な緊張を示すのか、頬の辺りがかすかに震えた。それを見て、
「我慢して嘘を言っちゃだめなんだからなっ。目なんだからなっ。取り返しがつかないことになるから、正直に言うんだぞっ!」
 さすがは“掛かり付け”のお医者様で、日頃の彼が…向こうへ突き抜けてるようなとんでもない傷でさえ“大したことはない”と大嘘を言うのを把握していての、念を押すのを忘れない。それへと…唯一見えてる感情の鏡、精悍に引き締まった口許を、にやりと笑う形に歪ませて、
「ホントだよ。さっきまでは頭ん中を何かが飛び交ってるみたいな感じもあったんだが、今はだいぶ落ち着いてる。」
 剣士にとっても“視覚”は大切。なればこそ、正直に申告したゾロなのだろう。平生と変わらぬ声で応じており、
「他には怪我もないんだしよ、大丈夫だから…。」
「ダメなんだからねっ!」
 皆まで言わさず、チョッパーのダメ出しが飛んで来た。
「目っていうのは…視覚っていうのはね、五感の中で一番使ってるものだけに、侭ならないとそれだけで、ストレスが異様に溜まってしまうんだぞ?」
 嗅覚や聴覚の方に頼っている犬や、超音波を放ってその反射で物の有処を“見て”いるコウモリなんかはともかくも。人間は外部情報の大半を視覚優先で判断しているのだそうで。例えば、寝ていて感じる“夢”は“見る”という表現をしますよね? 臨床実験などによると、夢が展開されている最中は、眠っている人の瞼の下で眼球が活発に反応するのだそうで。けれど実際には瞼が降りている訳ですから、何かを“見て”はいない筈。視覚的な記憶が脳裏で展開されていての反応だそうですが、とゆことは。本人の意識がない眠りの中ででさえ、何か思い出そうとしている時に、視覚的な記憶が優先されている証拠でもある訳ですよね?
「他の五体が何ともなくたって、体や気持ちへの疲弊は半端じゃないんだからネっ。だから、大人しく横になってなきゃダメっ!」
 いいなっ、判ったなと、興奮激高する余り、その病人の胸倉の上へ乗り上がってまでして厳しく言いつけるチョッパー先生には、さしもの剣豪でも迫力で圧倒されたらしい。
「お、おう。判ったよ。」
 珍しくも口ごもりつつ、見えてはいなかろう宙へ向け、了解という意を示して見せる彼であり。


   「炎症が完全に引くまでの1週間だからなっ。
    ちゃんと此処で横になって大人しくしていること。いいなっ!」


    ………チョッパー先生。判ったから、患者の上からは降りなさい。
(苦笑)






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